2025年10月22日、警視庁は退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスに対して家宅捜索を実施しました。この出来事は、退職代行業界に大きな波紋を広げています。
弁護士法違反の疑いが持たれている本件は、非弁行為として知られる違法行為が焦点となっています。業界の規制強化を促す可能性が高いです。本記事では、事件の概要から経緯の詳細、背景、及び今後の影響について、事実に基づき振り返ります。
退職代行モームリ家宅捜索の概要

退職代行サービス「モームリ」は、利用者が勤務先に対して退職の意思を伝える代行業務を提供する企業として知られています。運営会社である株式会社アルバトロス(東京都品川区)は、2025年10月22日、警視庁生活経済課によって本社を含む複数箇所に家宅捜索を受けました。容疑は弁護士法第72条違反、すなわち非弁行為です。具体的には、弁護士資格を有さない同社が、退職に関する法律相談や交渉業務を有償で弁護士に紹介し、紹介料を受け取っていた疑いが持たれています。
捜査関係者によると、この行為は少なくとも2024年に遡る可能性があり、利用者の退職プロセスで企業側とのトラブルが発生した場合、弁護士を斡旋しキックバックを得ていたとされています。非弁行為とは、弁護士以外の者が報酬を得て法律事務を行うことを指します。弁護士法で厳格に禁止されています。警視庁は、こうした違法斡旋が業界のグレーゾーンを悪用したものであるとみて捜査を進めています。
この家宅捜索は、退職代行サービスの合法性に再び光を当てることとなりました。モームリは、利用者から「ブラック企業にも対応可能」との評判を集め、市場シェアの約70%を占めていたとの指摘もあります。しかし、この事件により、業界全体の信頼性が揺らぐ恐れが生じています。
事件の経緯:弁護士会警告から家宅捜索まで

本件の端緒は、2024年11月に遡ります。東京弁護士会は、「退職代行サービスと弁護士法違反」と題する注意喚起文を公表しました。この文書では、退職代行業者が本人に代わり企業側と交渉を行う場合や、報酬を得て弁護士を紹介する場合に、非弁行為に該当する可能性があると警告しています。こうした行為は弁護士の独占業務を侵害するとして、業界全体への警鐘を鳴らしました。 この警告は、モームリのようなサービスが拡大する中で、弁護士会から非弁行為の可能性を指摘されていた背景を示しています。
続いて、2025年4月頃、週刊文春がモームリの元従業員からの告発を基に、同社の内部実態を報じた記事を掲載しました。同記事では、会社が弁護士を違法に斡旋し、紹介料を得ていた可能性が指摘されていました。家宅捜索はこの報道から約半年後に行われており、告発が捜査のきっかけとなったとみられます。
元従業員の証言によると、モームリは退職代行の基本業務を超え、残業代請求や退職金交渉などの法律的事項を扱うケースが増えていました。これらの業務は弁護士のみが扱える領域であり、同社は提携弁護士に案件を回す形で対応していました。しかし、このプロセスで会社側が紹介料を受け取っていたことが、非弁行為の核心です。弁護士界隈では、この問題が早くから認識されており、業界内の議論を呼んでいたとの情報もあります。
2025年に入り、警視庁はこれらの情報を基に本格的な捜査を開始しました。10月22日の家宅捜索では、会社の帳簿や契約書類、通信記録などが押収されたと推測されます。捜査は現在も継続中であり、アルバトロス社の幹部に対する事情聴取が予想されます。なお、モームリ側は公式声明をまだ出していませんが、捜索直後、X(旧Twitter)上で「モームリ」がトレンド1位となり、社会的な注目を集めました。
経緯を時系列で振り返りますと、以下のようになります:
この流れは、退職代行業界の急速な拡大が法的な盲点を露呈させた典型例と言えます。
非弁行為とは何か:弁護士法違反の法的背景

非弁行為は、弁護士法第72条で定められた禁止事項です。同条項は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」と規定しています。モームリの場合、退職関連の交渉を弁護士に周旋し、報酬を得ていた点がこれに該当するとされます。
退職代行サービス自体は合法であり、単に退職の意思を伝える「伝言」行為は問題ありません。しかし、企業側との交渉や未払い賃金の請求が入ると、法律事務に該当し、弁護士の独占業務となります。モームリは、この境界線を越えた疑いが強いです。
弁護士側も、紹介料を支払っていた場合、懲戒処分の対象となり得ます。実際、弁護士会ではこうした提携のリスクが指摘されており、事件は業界全体の警鐘となっています。 東京弁護士会の警告文も、このような非弁行為の防止を目的としており、退職代行業者に対して法的遵守を強く促しています。
過去の類似事例として、2010年代の債務整理代行事件や、近年増加する退職代行関連の相談が挙げられます。これらのケースでは、罰金刑や業務停止処分が下されることが多いです。モームリ事件も、罰金100万円程度の執行猶予付き判決が予想されますが、市場への影響は大きいです。
退職代行業界の現状とモームリの役割

退職代行サービスは、2010年代後半に登場し、パワーハラスメントや過労問題が社会問題化する中で需要が急増しました。モームリは、即日対応や低価格を武器に、業界トップの地位を築きました。利用者は主に20~30代の若手社員で、ブラック企業からの脱出を支援するイメージが強かったです。しかし、今回の事件で明らかになったように、サービス拡大が法令遵守を犠牲にした側面があります。
業界全体では、数百社の業者が存在し、年間数万件の利用があると推定されます。モームリのシェアが70%を占めていたとの見方もあり、同社の動向は市場に直結します。X上の反応では、「ようやく捜査が入った」「業界の浄化につながる」といった意見が散見され、利用者の不安も広がっています。
一方で、退職代行の必要性自体は否定できません。労働環境の悪化が背景にあり、労働組合や公的機関の活用が推奨されますが、心理的なハードルが高い利用者も多いです。事件は、サービスを合法的に提供するためのガイドライン策定を促す契機となります。
今後の影響と業界の展望

家宅捜索の結果、アルバトロス社は業務停止や罰則を受ける可能性が高いです。これにより、モームリのサービスは一時中断され、利用者は他社への移行を迫られます。業界全体では、弁護士提携の透明化や、非弁行為の防止策が求められます。厚生労働省や弁護士会が規制強化に動く可能性もあり、合法的な退職支援モデルの構築が急務です。
利用者視点では、信頼できる業者の選定が重要となります。退職代行の利用前に、労働基準監督署やハローワークへの相談を検討すべきです。一方、企業側は、退職者の声に耳を傾け、離職防止策を強化する必要があります。この事件は、単なる違法行為の摘発を超え、日本社会の労働問題を浮き彫りにしました。
結論として、退職代行モームリ家宅捜索事件は、業界の成熟を促す転機となります。法令遵守を徹底しつつ、利用者の権利を守るバランスが、今後の鍵です。捜査の進展を注視し、さらなる詳細が明らかになるのを待ちます。


















