内定辞退の正しい対応方法と注意点|退職代行の利用や法的リスクも解説

近年、日本の新卒採用における内定辞退率は高く、平均で約60〜65%程度とされています。具体的には、2023年卒の内定辞退率は65.8%、2022年卒は61.1%、2021年卒は57.5%と、年々上昇している傾向です。

つまり、10人に内定を出した場合、6人以上が辞退する計算になります(出典例あり)。企業規模別に見ると、大企業(従業員1001名以上)では平均155.4名に内定を出す一方、小規模企業(50名以下)は平均4名程に内定を出すものの、辞退率は企業規模に関わらず高めです。中途採用では選考期間が短い分、辞退率がさらに高くなる傾向が確認されています。背景には売り手市場や学生の複数内定取得などがあります。

以下では、内定辞退の具体的な段取り・連絡方法・やってはいけないこと、さらに退職代行を使った内定辞退の実態・法的リスクまで、実務的にわかりやすく解説します。

内定辞退の基本フロー|段取りと優先順位

内定辞退は、企業側に迷惑をかけないよう、迅速かつ丁寧に行うことが重要です。転職・新卒を問わず基本は共通で、日本企業では電話連絡を優先し、その後にメールや書面でフォローするのがマナーです。

  1. 辞退を決めたらすぐに連絡する
    内定通知を受け取ったら2〜3日以内、遅くとも1週間以内に連絡するのが望ましいです。法律上は入社2週間前まで辞退可能ですが、マナーとしては早めが鉄則です。遅れるほど企業の採用計画に悪影響が出ます。
  2. 連絡方法を選ぶ
    • 電話が推奨:採用担当者に直接電話を入れ、辞退の意思を明確に伝えます。メールのみで済ますのは避けましょう。
    • 転職エージェント経由:転職エージェント経由で内定した場合は、まずエージェントに連絡して指示を仰ぎます。
  3. 電話での伝え方(例)
    「お世話になっております。[氏名]です。先日は内定をいただき、ありがとうございました。大変恐縮ですが、諸事情により内定を辞退させていただきたく、ご連絡いたしました。誠に申し訳ございません。」と、まず感謝と謝意を述べ、簡潔に辞退の意思を伝えます。
  4. フォローアップは必ず書面で
    電話後すぐにメールや手紙でお詫びと辞退の意思を本文に残します。手紙を送る場合は簡潔に感謝と謝罪を記述します。

    メール例文(テンプレ)
    件名:内定辞退のお詫び
    [企業名] 採用担当 [担当者名] 様
    お世話になっております。[氏名]です。
    先日は内定のご連絡をいただき、誠にありがとうございました。
    しかしながら、諸般の事情により、内定を辞退させていただきたく存じます。
    貴社のご期待に沿えず、大変申し訳ございません。何卒ご理解のほどよろしくお願いいたします。
    [連絡先]

  5. 理由の伝え方
    理由は「一身上の都合」「諸般の事情」等、簡潔に留めるのが基本です。企業批判や他社との比較は避け、正直だが曖昧にするのがトラブルを招かないコツです。理由を述べる必要は必ずしもありません。
  6. 内定式後や入社直前の辞退
    内定式後でも辞退は可能ですが、企業への影響が大きくなるため早めに連絡することが重要です。入社直前の辞退は特に波紋を呼びやすいため、誠意ある対応と迅速な連絡を心がけましょう。

内定辞退で絶対にやってはいけないこと

内定辞退が避けられない場合でも、以下の行為は企業との関係を悪化させ、将来的なキャリアにも悪影響が出かねません。厳禁です。

  • 連絡なしにフェードアウト(サイレント辞退)
    企業が入社準備を進めている場合、大きな迷惑になります。期限内に必ず連絡しましょう。
  • 嘘の理由を述べる
    虚偽申告は後々トラブルの元になります。選考状況の嘘も避けます。
  • 企業を批判したり他社を引き合いに出す
    「貴社の条件が悪い」等のネガティブ表現は避け、個人的事情に留めます。
  • 連絡を遅らせる
    迷っている段階でも曖昧な連絡を続けるのはNG。決意したらすぐ行動してください。
  • メールやSNSのみで済ます
    電話を省略せず、まずは電話で誠意を示しましょう。直接訪問は原則不要です。

これらを守れば、企業との関係をできるだけ良好に維持したまま辞退できます。状況によってはキャリアアドバイザー等に相談するのも有効です。

内定辞退で退職代行サービスを使う人はいるのか?実態と注意点

内定辞退の連絡を【代行】するサービスは増えています。特に日本では、退職代行会社が内定辞退代行をメニューに含めているケースが多く、利用者は年々増える傾向です。

サービス提供の状況

  • 多くの退職代行会社が内定辞退代行を提供し、「成功率100%」などを謳う業者も見受けられます。専用サービスを用意して、電話連絡やメール送信を代行することで利用者は企業との直接的なやり取りを避けられます。
  • 具体例として、ある業者は2025年度卒の内定辞退依頼を3月末時点で22件受け付けたとの報告があるなど、新卒者を中心に利用が見られます。また、日常的に1日の依頼に内定辞退が含まれるケースもあります。

内定辞退で退職代行サービスを使う利用者の背景

  • 主に20代〜30代の若年層が中心です。理由は企業との「ミスマッチ」(福利厚生の違い、入社前の不信感)、引き止めを避けたい心理、あるいは精神的負担の軽減を求めるケースなどです。
  • 学校推薦の内定を辞退する場合にも、精神的な負担軽減のために利用されることがあります。

内定辞退で退職代行サービスを使うメリット

  • 企業と直接やり取りしなくて済むため、気まずさや激しい引き止め、叱責を避けられます。
  • 多くの代行サービスは即日対応が可能で、手間を省けます。
  • 内定は労働契約の一種ですが、代行利用で直ちに損害賠償に発展するリスクは低いとされます。

内定辞退で退職代行サービスを使うデメリット・注意点

  • 代行は合法であっても、学校や業界内での評判に影響する場合があります。特に母校や推薦ルートを重視する場合は配慮が必要です。
  • 「ゴースティング(連絡なし辞退)」と並んで、代行をネガティブに捉える企業もあり得ます。
  • 代行業者を選ぶ際は、信頼性・対応の丁寧さ・費用の透明性を事前に確認することが重要です。

利用は選択肢の一つですが、可能であればまずは自分で誠意を持って連絡するのが望ましいです。どうしても精神的負担が大きい場合は、有効な手段になり得ます。

内定辞退が法的トラブルに発展する可能性と注意点

内定辞退が法的にトラブル化するケースは存在しますが、非常にまれです。ここでは法的背景と例外的リスクを整理します。

内定の法的性質

  • 日本では内定は「始期付き解約権留保付き労働契約」と解釈されることが一般的です。
  • 民法627条の趣旨により、入社日の2週間前までであれば辞退が認められるとされています(例外的な特約がある場合を除く)。

法的リスクは低いがゼロではない

  • 企業が損害賠償を求めるハードルは高く、通常は訴訟にまで発展しません。企業側も訴訟コストや立証の難しさを考慮し、請求を控えることが多いです。
  • ただし、以下のような場合は法的トラブルに発展する余地があります。

トラブルになりやすい状況

  • 入社直前や入社後すぐに辞退した場合:採用活動の機会損失や準備費用(制服、PC手配等)について主張される場合があります。
  • 特別な契約や誓約書の存在:内定承諾書や入社誓約書に「辞退時の損害賠償」に関する特約が入っている場合、企業はこれを根拠に請求する可能性があります。例として海外赴任や高額研修が条件の内定などです。
  • サイレント辞退(ゴースティング):連絡せずに辞退する行為は、企業に実害が出ると法的問題に発展することがあります。訴訟に行くケースよりも、業界内での情報共有による評判低下が現実的な害になります。
  • 学校推薦や公務員試験のケース:学校推薦での辞退は大学や指導教員との関係に影響を与える場合があります。公務員採用の辞退は自治体ルールや将来の受験資格に影響を与えることもあり得ます(まれですが注意が必要です)。

過去の事例

1990年代の航空会社の事例など、内定辞退に対して企業が訴訟を起こしたケースはありますが、損害賠償が認められた例は極めて稀です。多くは和解や示談で解決しており、実務上は訴訟回避を選ぶ企業が多いです。

内定辞退によるトラブルを避けるための実務チェックリスト

  1. 辞退が決まったら速やかに連絡(2〜3日以内が目安)
  2. まず電話で誠意を伝える(転職エージェント経由ならエージェントへ)
  3. 電話後にメールや書面でフォローして記録を残す
  4. 理由は簡潔に「一身上の都合」等で十分
  5. 内定承諾書の条項を確認し、特殊な賠償条項がないか確認する
  6. 退職代行を使う場合は信頼できる業者を選ぶ(対応実績・費用・謝罪文の内容を確認)
  7. 学校推薦や公務員関係の辞退は影響を検討し、必要なら学校側と相談する

まとめ:内定辞退は権利だが対応が重要です

内定辞退は日本法上認められた権利であり、適切に手続きを踏めば法的トラブルに発展することはほとんどありません。しかし、入社直前の辞退や無断辞退、特殊契約の無視などは例外的にリスクを高めます。倫理的にも社会的にも、迅速かつ誠意のある連絡を行うことが最も大切です。

どうしても直接連絡が難しい場合は、退職代行サービスを検討することも一つの手段ですが、利用する際は信頼性の確認を怠らないでください。不安がある方は、早めに弁護士やキャリアカウンセラーに相談すると安心です。

出典・参考資料

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