企業が外部人材を活用する手段として「業務委託」と「業務請負」が広く利用されています。どちらも会社員の雇用契約とは異なる契約形態であり、働き方の多様化が進む中で注目度が高まっています。
しかし、契約解除やトラブル対応の場面では「雇用契約の退職」とは全く異なるルールが適用されます。特に近年は、退職代行サービスが業務委託や業務請負の解除に対応するケースも増えており、利用者側にとっては正しい知識が不可欠です。
本記事では、業務委託と業務請負の違いを整理した上で、退職代行を活用した契約解除の実務や注意点を詳しく解説します。
業務委託とは?契約の定義と特徴

業務委託契約は、企業が特定の業務を外部の個人や法人に任せる際に使われる契約形態です。フリーランスや副業人材が受ける仕事の多くは、この「業務委託」に分類されます。
- 定義: 業務遂行そのものを目的とする契約の総称で、請負契約や委任契約を含む広い概念。
- 特徴:
- 成果物の完成は必ずしも必要なく、専門知識や継続的サポートが対象。
- 委託者が一定の指示を行うことも可能。
- 報酬は時間・工数に応じて支払われることが多い。
- 典型例: コンサルティング、システム運用サポート、翻訳、マーケティング施策など。
- 法的分類: 主に民法643条に基づく「委任契約」や「準委任契約」。
つまり、業務委託は「継続的にサービスを提供する」スタイルに適しており、フリーランス案件の多くがここに該当します。
業務請負とは?契約の定義と特徴

一方の業務請負は、完成品の納品を前提とする契約形態です。
- 定義: 特定の成果物の完成を目的とした契約(民法632条)。
- 特徴:
- 成果物の完成責任を受注者が負う。
- 委託者は細かい業務指示を行わず、完成後に検収する形。
- 報酬は「完成」に対して支払われる。
- 典型例: 建設工事、アプリ開発、ウェブサイト制作、グラフィックデザインなど。
業務請負の本質は「完成責任」です。納品物が未完成であれば報酬は支払われず、逆に不備があれば損害賠償のリスクも発生します。
業務委託と業務請負の違いを整理
項目 | 業務委託 | 業務請負 |
---|---|---|
目的 | 業務の遂行 | 成果物の完成 |
指揮監督 | 契約内容による | 原則なし(独立性が高い) |
報酬基準 | 工数・労力・時間 | 成果物の完成 |
法的根拠 | 委任契約・準委任契約 | 請負契約 |
責任 | 成果物責任なし(通常) | 完成責任あり |
利用例 | 顧問契約、事務代行 | 建築、システム開発 |
業務委託と退職代行の関係性

退職代行サービスはもともと「雇用契約の退職」をサポートする目的で広がりました。しかし現在では、業務委託の解除にも対応するケースが増えています。
業務委託契約の解除方法
- 民法651条に基づき、業務委託は「いつでも解除可能」。
- ただし不利な時期に解除した場合、相手方に損害があれば賠償責任を負う可能性あり。
- 契約書に「解約通知期間(例: 1ヶ月前)」が定められている場合は、それに従うのが望ましい。
退職代行の役割
- 本人に代わって契約解除通知を送る。
- 引き継ぎの調整をサポート。
- 弁護士在籍のサービスなら、損害賠償や違約金トラブルにも対応可能。
つまり、業務委託においては「退職」という言葉は使わず、**「契約解除」**として処理されるのがポイントです。
業務請負契約と退職代行の利用

業務請負契約では、途中での解除は原則として困難です。
法的背景
- 請負は「成果物の完成」を前提にしているため、受注者からの一方的な解除は債務不履行にあたる可能性が高い。
- 民法641条により、発注者は仕事完成前でも損害賠償を支払って解除可能。
- 受注者側は「合意解除」または「やむを得ない事情」が必要。
法的根拠と契約解除の方法 – 民法の適用: 業務請負は「請負契約」(民法632条)に該当し、成果物の完成が契約の核心です。受注者側からの途中解除は、原則として発注者の合意が必要です。一方的な解除は債務不履行とみなされやすく、発注者側のみが仕事完成前いつでも損害賠償で解除可能(民法641条)。ただし、契約書に解除条項があればそれに従い、合意解除ややむを得ない事由(例: 病気、偽装請負の主張)で対応可能です。
退職代行の活用
- 弁護士系の退職代行であれば、解除通知や賠償交渉の代行が可能。
- 偽装請負(実態が雇用契約に近い場合)を主張し、労働法を適用するアプローチもあり。
注意すべきリスク

- 損害賠償: 成果物未完成や契約違反による損害を請求される可能性。
- 偽装請負のリスク: 指揮命令が強い場合は雇用契約と判断されるケースも。
- 悪質業者の存在: 一部の退職代行サービスは契約内容を確認せず、連絡ミスや追加料金トラブルを起こす。
- 契約書確認の重要性: 解約条項、違約金規定、通知期間を必ず確認。
実務でのアドバイス
- 業務委託の場合: 比較的柔軟に解除できるため、退職代行を利用するメリットは大きい。
- 業務請負の場合: 契約解除が難しいため、まず弁護士に相談し、リスクを正しく把握する。
- サービス選び: 弁護士在籍の退職代行か、信頼できる実績のある業者を選ぶのが安全。
まとめ
- 業務委託契約は「業務遂行」を目的とし、退職代行を使って比較的容易に解除可能。
- 業務請負契約は「成果物完成」が前提であり、解除には高いリスクが伴う。
- いずれの契約でも、退職代行サービスは「契約解除の通知代行」として役立つが、最終的には契約書の内容と民法の規定が判断基準となる。
退職代行は単なる「雇用退職」の手段ではなく、業務委託や業務請負における契約解除をサポートする有効なツールへと進化しています。ただし、法的リスクや損害賠償の可能性を正しく理解し、信頼できるサービスや弁護士に相談することが成功への第一歩です。