退職を考えている方にとって、退職代行サービスはストレスや対人関係の負担を軽減する便利な手段です。しかし、利用者が増える一方で、詐欺的な業者が引き起こすトラブルも増加しています。
この記事では、具体的な被害事例を挙げながら詐欺の実態を明らかにし、会社側が詐欺を防ぐための具体的な対策を提案します。
退職代行サービスと詐欺の要因

退職代行サービスを巡る詐欺が増えている背景には、いくつかの要因が関係しています。特に、退職代行というサービスの性質そのものが詐欺の温床になりやすい点が大きな理由です。このサービスは、本人と会社の接点をなくす仕組みを取っており、これが不正を招きやすい環境を作り出しています。
たとえば、業者が本人に無断で退職手続きを進めたり、虚偽の情報を会社に伝えることが容易になります。退職代行ほっとラインの調査によると、利用者の約10%が「会社が本人に確認を取った」と報告しており、接点の欠如がトラブルを引き起こしていることが裏付けられています(退職代行ほっとライン「退職代行のトラブル事例15選」)。
さらに、サービス提供者の匿名性も詐欺増加の一因です。オンラインで運営される業者の多くは実態が不透明で、料金支払い後に連絡が途絶えるケースが多発しています。東京商工リサーチの2023年調査では、苦情が前年比30%増え、その大半が「音信不通」に関するものだったと報告されています(東京商工リサーチ「退職代行サービスに関する苦情動向」)。
また、法的なグレーゾーンに位置することも詐欺を助長しています。弁護士資格を持たない業者が交渉を行うのは非弁行為に該当するリスクがあるものの、規制が不十分なため違法業者が横行しやすくなっています。東京弁護士会も、こうしたサービスの法的な問題を指摘しています(東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」)。
このように、退職代行サービスの構造的な特性が詐欺を誘発しやすくしており、利用者と会社双方がリスクに注意する必要があります。
被害の実例

退職代行サービスに関連する詐欺は、依頼者と会社双方に影響を及ぼします。以下に、実際の被害事例を具体的に紹介します。
依頼者への詐欺の事例
- 支払い後に連絡が途絶えたケース
- 事例: 20代のAさんは、SNSで「格安退職代行サービス(2万円)」を見つけ、銀行振込で料金を支払いました。しかし、支払い後に業者のLINEアカウントが突然ブロックされ、連絡が取れなくなりました。Aさんは退職手続きが進まず、結局自分で会社に連絡する羽目になり、2万円を失った上に精神的負担が増加しました(ベンナビ労働問題「退職代行の失敗事例」)。
- 被害規模: 調査では、利用者の約5%が同様の「支払い後の音信不通」を経験しています。
- 不十分なサービスで退職が成立しなかったケース
- 事例: 30代のBさんは、5万円を支払い退職代行を依頼しましたが、業者が会社に連絡しただけで正式な書類提出がなされず、会社から「退職の連絡は受けていない」と言われました。Bさんは結局自分で退職交渉を行い、「お金を払った意味がなかった」と後悔しています(退職代行ほっとライン「退職代行のトラブル事例15選」)。
- 影響: このようなケースでは、時間と費用の無駄に加え、会社との関係がさらに悪化するリスクもあります。
会社への詐欺の事例
- 偽の退職理由をでっち上げられたケース
- 事例: ある中小企業C社では、退職代行から「従業員Dが健康上の理由で退職する」と連絡を受けました。しかし、D本人に確認したところ、「そんな理由で辞めるつもりはない」と否定。業者が勝手に理由を捏造し、手続きを進めようとしたことが判明しました。C社は混乱し、Dとの信頼関係にも影響が出ました(退職代行ほっとライン「退職代行のトラブル事例15選」)。
- 問題点: 会社側が対応を誤ると、従業員との間で不必要な誤解が生じます。
- 非弁行為による違法な交渉
- 事例: 企業E社に退職代行から連絡があり、「有給休暇の全消化と退職金の交渉」を求められました。しかし、業者は弁護士資格を持たず、違法な非弁行為に該当。E社が弁護士に相談したところ、「この交渉は無効」と判断され、手続きが中断されました。結果として、従業員と会社双方が混乱し、法的なリスクを抱える事態に(東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」)。
- リスク: 違法行為が発覚すると、訴訟や労使紛争に発展する可能性があります。
詐欺を避けるための具体的な対策

詐欺的な退職代行サービスに対応するため、会社側が取るべき具体的な対策を以下に示します。これにより、不正な手続きを防ぎ、法的なリスクを最小限に抑えられます。
- 本人意思の確認手順を確立する
- 方法: 退職代行から連絡を受けた場合、即座に本人に電話やメールで退職の意思を確認する。本人確認が取れない場合、手続きを保留にする。
- 例: 「代行からの連絡後、本人が否定したため保留」とすることで、偽装を防げる。
- 法的対応の準備をする
- 方法: 非弁行為や違法手続きが疑われる場合、弁護士に相談し、法的対応を検討する。偽装退職理由が発覚した際は証拠を保存する。
- 例: 弁護士法違反を理由に業者へ警告書を送付する。
- 信頼できる業者との連携を検討する
- 方法: 弁護士事務所や労働組合が運営する信頼性の高いサービスと事前に連絡ルートを整備する。
- 例: 「弁護士監修のサービスのみ対応可」と方針を定める。
- 社内ルールの明確化
- 方法: 退職手続きに関する社内規定を整備し、代行利用時の対応フローを従業員に周知する。
- 例: 「退職は本人確認後受理」と規定に明記する。
- 記録の保持
- 方法: 退職代行とのやりとりや本人との連絡内容を記録し、トラブル時の証拠として保管する。
- 例: メールや通話記録を保存し、紛争に備える。
- 弁護士名と弁護士番号を確認する
- 方法: 退職代行が弁護士を名乗る場合、その弁護士名と弁護士番号を確認し、所属する弁護士会に照会して真正性を確かめる。
- 例: 東京弁護士会に問い合わせ、偽の弁護士を排除する。
- 委任状の提出を求める
- 方法: 退職代行が代理人として行動する場合、本人からの委任状を求める。委任状には本人の署名と日付が記載されていることを確認する。
- 例: 委任状がない場合、手続きを進めないことで不正を防ぐ。
まとめ
退職代行サービスは便利な一方で、詐欺による被害が後を絶ちません。依頼者への詐欺では金銭的・精神的な損失が生じ、会社への詐欺では混乱や法的な問題が発生します。会社側は、上記の対策を講じることでリスクを軽減し、適切な退職手続きを確保できます。信頼できるサービスを選び、慎重に対応することが重要です。
参考資料
- マイナビキャリアリサーチLab: 退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)
- ベンナビ労働問題: 退職代行の失敗事例
- 東京弁護士会: 退職代行サービスと弁護士法違反
- 退職代行ほっとライン: 退職代行のトラブル事例15選