退職代行サービスのサイトやプレスリリースには、「成功率」「年代構成」「勤続期間」「退職理由」「繁忙期」などの“退職者データ”が数多く並びます。数字は比較検討に役立つ半面、集計方法や表現のクセを理解しないと、誤った判断につながりかねません。
本稿では、最新のインターネット調査で公開されている一次情報を踏まえつつ、データの見方・限界・実務での使い方を立体的に解説します。企業や行政の統計も補助線として参照し、単なる宣伝値にとどまらない読み解き方を提示します。
どんな「退職者データ」が公表されているのか

多くの事業者は、(1)年齢・性別比、(2)勤続年数の分布、(3)退職理由、(4)利用が集中する時期、(5)地域別傾向、(6)“成功率”や返金保証の有無、を公開しています。
たとえば、業界大手の公開値では30代以下が約8割、特に20代の比率が高い、勤続半年未満が多数派といった傾向が明示されています。これは新卒・若手の早期離職の高さとも整合します。
新卒・若手に偏るのは本当か|公的統計との照合

厚生労働省の「新規学卒就職者の就職後3年以内離職率」は、高卒で約38%、大卒で約35%と、早期離職が一定規模で生じていることを示します。
民間の退職代行データで20代の比重が高いのは、この構造的背景を反映したものと理解できます。“退職代行だから若者が多い”のではなく、若年層に離職が集中しやすい労働市場の現実がまずあり、それを代行サービスが受け止めている、という順序です。
勤続期間「半年未満」が多い理由

モームリの大規模データでは、勤続半年未満が63.2%と報告されています。入社直後は配属・業務・人間関係のミスマッチが顕在化しやすく、直接言い出しにくい人ほど代行を選びやすい、という説明が付されます。
公的統計でも離職が夏~秋に山を作る傾向が確認され、季節要因(配属後のズレ、賞与前後の意思決定)と重なる点も見逃せません。
「繁忙期」の読み方|月別推移に注目

EXITはボーナス期に相談が増えること、各社の月別グラフは4月~9月・年明け1~3月に山が出やすいことを示します。
転職市場や賞与サイクル、試用期間の終了時期といった外生要因を重ねると、数値の解釈がクリアになります。単月比較ではなく移動平均で季節変動を慣らして眺めるのがコツです。
退職理由データの“建前”と“本音”

公表値には「体調不良」「業務量が過大」「上司・人間関係」「やりたい仕事と違った」などが並びます。モームリの新卒アンケートは表向きの理由と実際の理由を分けて集計しており、“会社に伝えた理由”と“内心の理由”のズレが可視化されました。
サイト上の円グラフは見栄え重視になりがちですが、自由記述の内容や設問設計が開示されているかまで確認すると、データの信頼性が測れます。
「成功率99〜100%」の正しい受け止め方

“成功率ほぼ100%”という表示は多数存在しますが、定義(=「退職の意思が伝わり、最終的に退職に至った件」を分母分子どう置くか)が各社で異なることに注意が必要です。
返金保証の有無、再連絡・再交渉の扱い、中途解約のカウント等を開示しているか確認しましょう。「退職できなかった場合は全額返金」といった条件は、実質的に“成功率”の見せ方を底上げする効果があるため、条項を最後まで読むのが安心です。
企業側データで分かる「広がり」と「反作用」

東京商工リサーチの企業アンケートでは、退職代行からの連絡を受けた企業が7.2%、大企業では15.7%に達したと報告されました。
普及の一方で、採用時の水際チェック(リファレンスなど)の強化という“反作用”も示されています。個人に“烙印”が残るわけではありませんが、転職戦略上の示唆として押さえておきたいポイントです。
「匿名統計」と個人情報|安心して見てよい線引き

事業者が公表する年齢分布や理由別割合などの集計統計は、個人が特定されない限り、個人情報保護法の対象外です。個人情報保護委員会も、統計情報は個人と対応しない限り個人情報に当たらないと明確化しています。
他方、サンプルが極端に小さい属性(特定の職種×地域×年齢など)は再識別の懸念があり、公的ガイドラインは“最小セルのサイズを一定以上に”といった匿名化の目安を示します。公開レポートにサンプル数(n)や匿名化配慮が書かれているかも確認点です。
データの“使える”活用法
「良いデータ公開」と「危ういデータ公開」を見分けるチェックリスト

これらが揃うほど、比較可能で信頼度の高いデータと判断できます。
代表的な公開データ
“データに強い”サービス選びの実践ポイント
まとめ ─ 数字を「比べる」のではなく「使う」
退職代行の退職者データは、若年×短期離職×季節変動という構造を背景に、各社ごとの強みを映し出します。見るべきは“成功率の高さ”それ自体ではなく、定義の明確さ・サンプルの厚み・更新の継続性です。
さらに、公的統計でマクロの地図を持ち、企業側データで現場の反作用も把握しておくと、「いま・どこで・どう動くか」の意思決定がブレにくくなります。数字は正しく読めば、迷いを減らす道具になります。