退職代行サービスが注目される中、「社員は簡単に辞められるのに、会社は解雇しにくい」という不公平感が話題になります。社員側は「辞めにくい職場環境」や「ハラスメント」から逃れるために退職代行を選ぶ一方、会社側は「急な退職で業務が混乱」「引き継ぎ不足で損害が出る」と不満を抱き、時には裁判に発展します。
実際、退職代行を巡る裁判ではどんな判決が出ているのでしょうか? 最新のインターネット調査と具体的な裁判例を基に、退職代行が認められたケース、認められなかったケース、追加手続きを強いられたケースを詳細に解説。あなたが退職を考えるとき、会社とのトラブルを避けるための道筋を照らします。
退職代行を巡る不公平感の構造

退職代行は、社員に代わって退職の意思を会社に伝えるサービスで、特に20代の利用が増加しています。2024年の調査では、転職者の18.6%が退職代行を利用し、サービス業やIT業界で顕著(マイナビキャリアリサーチLab「退職代行サービスに関する調査レポート(2024年)」)。社員側は「上司に直接言えない」「引き留めが怖い」といった理由で利用する一方、会社側は「突然の退職で業務がストップ」「採用コストが無駄になる」と感じ、法的非対称性から不公平感が生じます。
- 社員の権利:民法第627条1項に基づき、無期雇用契約の社員は2週間の予告で退職可能。有期雇用でも「やむを得ない事由」(例:パワハラ)があれば即時退職可(民法第628条)。
- 会社の制約:労働契約法第16条により、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要。整理解雇には厳格な4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、選定基準の合理性、説明義務)が求められ、会社は簡単には解雇できない。
この法的ギャップが、会社側に「社員が自由に辞められるのは不公平」と感じさせ、裁判に発展するケースが増えています。
裁判例1 退職代行が認められたケース

意思伝達の合法性 東京地方裁判所 令和2年2月3日判決
事案 原告(従業員)が退職代行業者(被告)に5万円を支払い、退職の意思を会社に伝える契約を締結。業者が会社に連絡したところ、会社は「雇用契約ではなく業務委託契約」と主張し、法的紛争の可能性を示唆。業者は交渉を中止し、原告が自ら退職手続きを進めた。原告は「業者の行為が非弁行為(弁護士法第72条違反)」として、報酬返還(5万円)と慰謝料(50万円)を請求。
裁判所の判断 裁判所は、業者の行為が「退職の意思伝達」に留まり、交渉や法的行為に及ばなかったと認定。非弁行為には該当せず、契約は有効で、報酬返還や慰謝料の請求は棄却された。この判決は、退職代行の基本業務が合法であることを明確にし、社員側に有利な先例となった(ジン法律事務所「退職代行サービスと弁護士法違反」)。
影響 この判例は、民間業者が「使者」として退職意思を伝える行為が合法であることを裏付け、退職代行の普及を後押し。会社側は、退職の自由(憲法22条1項)を理由に退職を拒否できないことが再確認された。
ポイント
裁判例2 退職代行が認められず損害賠償が命じられたケース

無断欠勤による損害賠償 東京地方裁判所 平成28年判決
事案 従業員が退職代行を利用し、2週間以上の無断欠勤後に退職。会社は「引き継ぎなしで業務が停滞し、取引先との契約が解除された」として480万円の損害賠償を請求。従業員の無断欠勤と引き継ぎ放棄が具体的な損害(売上減少、外注費増加)を引き起こしたとされた(jobs1.jp「退職代行で辞めると損害賠償請求されるって本当?」)。
裁判所の判断 裁判所は、従業員の「債務不履行(無断欠勤)」と「損害(取引先喪失)」に因果関係があると認め、一部の賠償請求(約200万円)を認めた。退職代行自体の利用は問題視されなかったが、無責任な退職プロセスが賠償の根拠となった。厚生労働省の裁判例データベースでも、こうしたケースは「例外的に認められる」とされています(厚生労働省「辞職に関する裁判例」)。
影響 この判例は、退職代行利用者に対し、適切な予告期間(2週間)や引き継ぎの重要性を示した。会社側は、具体的な損害(例:売上減少の証拠)を立証できれば賠償請求が認められる可能性があるが、立証のハードルは高い。
ポイント
裁判例3 追加手続きを強いられたケース

交渉の限界と従業員の負担 未提訴ケース
事案 IT企業の中堅エンジニアが退職代行(民間業者)を利用し、即日退職を希望。会社は「プロジェクトの中断による損害」を主張し、有給消化を認めず、退職日を延期するよう要求。業者が交渉できず(非弁行為の制限)、従業員本人が会社と直接交渉を強いられた。最終的に弁護士が介入し、退職日を調整したが、退職完了まで1ヶ月半かかった(ベンナビ労働問題「退職代行を利用して起こるトラブルを解説」)。
背景と結果 民間業者は弁護士法第72条により交渉が禁止されており、会社が反発すると対応が途絶える。このケースでは、従業員が弁護士に依頼し直し、有給消化と退職日を調整したが、時間と追加費用(弁護士費用約10万円)が発生。会社側は「損害賠償を検討」と脅したが、立証が難しく訴訟には至らなかった。
影響 民間業者の限界が明確になり、複雑なケースでは弁護士や労働組合運営の退職代行を選ぶべきとの認識が広まった。東京弁護士会は、こうしたケースで非弁行為のリスクを警告しています(東京弁護士会「退職代行サービスと弁護士法違反」)。
ポイント
裁判例4:会社側の損害賠償請求が棄却されたケース
損害の立証不足 大阪地方裁判所 平成30年判決
事案:小売業の従業員が退職代行を利用し、2週間の予告期間後に退職。会社は「シフトの穴で売上が減少した」として300万円の損害賠償を請求。従業員は予告期間中に引き継ぎ書を作成し、業務に大きな影響がないことを主張。
裁判所の判断:裁判所は、会社が主張する売上減少と退職の因果関係を立証できなかったとして、請求を棄却。退職代行の利用自体は「労働者の権利」(民法第627条)に基づくもので、損害賠償の根拠にならないと判断(咲くやこの花法律事務所「退職後の損害賠償トラブル」)。この判例は、会社側が具体的な損害の証拠(例:売上データ、取引先喪失の記録)を提示できない場合、賠償請求が認められにくいことを示した。
影響:社員側に有利な判例として、退職代行の利用が「不当な行為」とみなされにくいことを強化。会社側は、損害賠償を主張する際の立証責任の重さを認識する必要がある。
ポイント:
不公平感の深層と解決策

会社側の不満と課題
会社側は、労働契約法の厳しい解雇規制(第16条)と採用市場の売り手市場により、退職代行を「無責任」と感じます。2024年の調査では、企業の23.2%が「引き継ぎ不足」を課題とし、18.4%が退職代行を経験(東京商工リサーチ「退職代行業者から連絡、大企業の約2割が経験」)。特に中小企業では、1人の退職が業務に大きな影響を及ぼし、採用コスト(平均80万円、リクナビNEXT)やプロジェクト遅延の負担が重い。
社員側の悩みと動機
社員側は、「パワハラ」「過労」「引き留め圧力」から退職代行を選ぶケースが多い。エン・ジャパンの調査では、40.7%が「上司との関係」を理由に挙げ、32.4%が「直接言えない環境」を指摘(エン・ジャパン「退職代行実態調査」)。Xの投稿でも、「ブラック企業からの脱出には退職代行が有効」との声が見られます(@taisyokususume)。
解決策
まとめ:不公平感を越えて次のステップへ
退職代行を巡る裁判例からは、意思伝達に留まるサービスは合法だが、無断欠勤や引き継ぎ放棄は損害賠償リスクを高めることがわかります。会社側は厳しい解雇規制と業務混乱に悩み、社員側は辞めにくい環境に苦しむ。
この不公平感を解消するには、会社はオープンな職場環境を、社員は責任ある退職プロセスを心がけることが重要です。あなたが退職を考えているなら、信頼できる業者を選び、ルールを守って進めることで、安心して新しい一歩を踏み出せます。自分を大切に、次の未来を描いてみませんか?